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「行動変容」出来ない理由から考える
継続できる“よりそう”健康経営とは

はたらく人の健康を経営的な視点でとらえ、戦略的に健康施策に取り組むことの重要性は、すでに広く認知されています。バラエティに富んだ取り組みが展開される一方で、参加率や継続率に課題を感じた施策もありました。またテレワーク勤務の占める割合が増えた今、新しい施策はどのように推進していくのがよいのでしょうか。
そこで今回は「より多くのはたらく人が参加して、継続できる健康施策」をテーマに調査を行いました。これから必要とされる健康経営のスタイルを探ります。

「行動変容」のプロセスから課題を検討

社員の健康のための健康経営にあたっては、「デスクワーク後の体操」「階段利用の促進」といった身近な行動の推進から、全社的なヘルスケアのセミナー・研修まで、多くの企業でさまざまな施策が求められ、実行されてきたはずです。しかし同時に管理部門からは「興味を持ってもらえたのか」という疑問の声や、当事者たちも「意欲的に続けられなかった」といった反省があるようです。
こうした現代人に特有の課題を、導入から運用にいたるまで時系列にまとめると、以下の5つが考えられます。

    <健康経営推進の課題>
  1. 何が課題なのか分からない
  2. 何をしたら効果が出るのか分からない
  3. 実行前に目標設定していない・検証できない
  4. 施策がスムーズに導入されない・継続されない
  5. 明確な結果が出ない

健康経営に取り組むにあたり、制度・施策の実行後は評価と改善を図っている企業・管理部門は少なくないはずです。しかし施策は成果で評価されることが多く、明確な問題点が分かりにくいケースがあります。また次に繋げるために重要な「施策のスムーズな導入・継続」という点の、細かい検証と改善は、見過ごされがちです。
そこで今回は、従業員が「行動」「継続」が困難な要因を追究するために、この中から4の「施策がスムーズに導入されない・継続されない」という点にフォーカスし、ある健康施策後にアンケートを実施して、従業員が行動するまでの流れを「行動変容」というアプローチで分析を試みました。
この「行動変容」とは、医療やカウンセリングの現場で使用されることが多い言葉で、厚生労働省の健康情報サイトでは、人の行動を適切な方向に変えるプロセスとして定義されています。ここでは、健康施策において、どのプロセスで対象者の行動が変容するかなどを、仮説として「認知」「興味」「意欲」「行動」4つのステージに分類しました。

<健康施策における行動変容のプロセス(仮説)>

東京都内にあるA社が行った健康施策を、これらのステージに照らし合わせてデータ分析を行い、どのような働きかけが有効なのかについて考えていきます。

離脱のタイミングとその理由とは?

今回の調査では、行動変容のプロセスが、①認知→②興味→③意欲→④行動であるという仮説を設定。A社が、休憩を目的に用意した健康施策に対して、社員アンケートを実施した結果から、次のステージに進まないで離脱したタイミングとその理由が明らかになりました。

<ある健康施策における行動調査結果(A社)>

(従業員150名WEBアンケート、N=92名 /2020年3月実施)

アンケートの結果、認知の段階で33.7%が離脱。社内メールを読まなかったなどの理由から、健康施策が展開されていたこと自体を知らなかったと回答しました。また施策の存在を知っていても、興味が持てなかったという人が59%に上り、多様な社員全員の大半から興味を引くことの難しさが露呈された結果でした。
さらに興味はあっても意欲を持てなかった人が40%、実際の行動に移すことができなかった人が26.7%となり、最終的に行動した人は12%に留まりました。
具体的に「なぜ離脱したのか」をステージごとに調べると、以下のような理由が浮かび上がりました。

    離脱理由の一例
  • メールの文面によっては、仕事のメールにまぎれてしまい記憶に残らない(認知)
  • 施策そのものに興味がない(興味)
  • 上司や同僚に暇だと思われたくない(意欲)
  • 施策をやる雰囲気が職場に漂っていない(意欲)
  • 実行するための準備が面倒に感じる(行動)

このような結果から、行動を変えていくためには、「認知」「興味」「意欲」「行動」の各フェーズでの足かせを外す必要があり、その上で興味を持てる施策から、意欲と行動へと促すマネジメントが重要だと考えられます。
しかし多くの社員に対して、それぞれ細かくサポートすることは、難しいはずです。さらにコロナ渦の中、「集まって一緒に」「対面で一斉に」を前提とした施策導入は、困難な状況が今でも続いています。
そこで次に管理部門に大きな負担が及ばず、社員が興味を持つ施策、さらに行動と継続へと導くマネジメントについて考えます。

“手軽”で“簡単”な法人向け健康管理アプリ

A社の健康施策の調査結果で目立った「興味がわかない」「人に見られたくない」「面倒である」というコメントからは、逆説的には興味さえ引くことができれば「いつでも、一人で、手軽にできる」という施策で、離脱率を下げられる可能性があります。そこでこれらの条件に合う施策の一例として、アプリの使用による健康施策に着目しました。
現在、スマートフォンなどを利用した健康管理のアプリは、歩数計やダイエットなども含めると玉石混交に存在しています。その中でも、医療費削減などの目的で法人向けに用意され、社員が各自で行えるプログラムは、テレワークによって出社の機会が減った今、企業の健康施策の一案として注目が高まっています。加えて今回の調査から考えると、アプリの健康施策そのものが自動的に「認知」「興味」「意欲」「行動」を促すことで、行動から継続へとサポートする機能を持っていることが望ましいといえます。
そこで2020年7月から『思わず続けたくなる健康サービス』として、法人向けに無料で提供されているアプリ「サントリープラス」をトライアル運用し、その行動変容を調査しました。
同アプリは、スマートフォンでのシンプルな操作とタスクで「誰もが続けられる」ことを目的として設計されたものです。いつでも手軽にタスクを実行できて、飲料クーポンなどがもらえるなどのインセンティブもあることから、興味を持って行動でき、さらに 離脱しない条件がそろっていると考えられます。

https://www.suntory.co.jp/softdrink/suntoryplus/

同アプリの特徴を行動変容の各フェーズに当てはめると、次のようになります。

  • 認知:スマートフォンアプリのプッシュ通知
    →自分で実行の時間設定をしてタスクを促す
  • 興味:軽いインセンティブ
    →ランクアップに応じた「おもしろ豆知識」の表示や飲料クーポンのプレゼント
  • 意欲:低ハードルのアクション
    →多数用意された簡単なタスクから実行するものを自分で選択
  • 行動:日常生活にリンクした健康施策
    →「血圧を下げるために朝、牛乳を飲む」など生活に組み込まれている

このように健康施策の導入から継続に向けたアプリによる継続的なマネジメントと、離脱要因がいくつか排除できると考えた「サントリープラス」を使用したトライアルのデータ集計結果は、以下のようになりました。

■「サントリープラス」アプリをダウンロードしたあとの行動

■ ダウンロード後にアプリを継続して試した理由の一例

  • 簡単に生活に取り入れられるものが多かった
  • 使用方法が分かりやすかった
  • 通知が来るので何となく続いている

今回は2週間という短期間での調査でしたが、利用者の半数がアプリのダウンロード後もアプリを継続していました。またデータの集計結果をみると、継続者のアクティブ率は、安定して平均60%弱と高水準をキープしていました(ヘルスケアアプリは1週間後に20%を切るのが平均的)。

さらに継続のカギとなったと考えられる“手軽”で“簡単”なアプリの人気タスクベスト3は、1位「肩甲骨を寄せて広げる」2位「朝起きたら朝日を浴びる」、3位は同率で「ご飯少なめチャレンジ」と「食事中はお茶を飲む」でした。
オフィスなどで仕事中に行うタスクよりも、日常活動に近い行動が、より手軽に実行しやすかったことを示唆しているようです。

一方でダウンロードしなかった人の理由の6割は、アプリの使用に興味がない、またはアプリに興味を抱いてもダウンロードが面倒だという結果でした。

■「サントリープラス」アプリをダウンロードしなかった理由

以上のトライアルから、サントリープラスのアプリは、行動した人の比率から考えるとA社の施策よりは、今後も継続率が維持される可能性が期待できます。
ヘルスケアアプリの中には、意識が高い人に向けたハードな運動や食事制限をメーンとしたものがある一方で、このような「頑張らない」ことを前面に出したものも増えつつあります。法人としてアプリを活用する場合は、緩めの施策が、行動変容のきっかけ、そして継続のポイントといえそうです。
次に、同アプリの監修にも携わったTHF代表取締役社長・田中喜代次氏(筑波大学名誉教授、教育学博士)に話を伺いました。なぜ頑張らないタスクが、興味から行動、継続へと人の行動を変えたのか、さらに多様な人たちへの対応やこれからの健康経営についてアドバイスをいただきました。

多様な社員に合わせた健康サポートを
田中 喜代次氏
株式会社T H F代表取締役社長
筑波大学名誉教授
教育学博士

健康にいいと頭で分かっていても、実際に個人で「行動」を起こし、それを「継続」することは難しいものです。とは言え、企業の巧みなサポートによって、社員を上手に健康施策へと導くことは可能です。
アプリを使って「行動変容」することができるまじめなタイプは、低いハードルからのスタートであっても、一旦健康習慣が身に付いたら、より高い質の活動へと移行できる人たちです。「行動変容」する意欲があっても、実行できなかった人もいるでしょう。このタイプは、仕事や育児に追われているなどで行動に移せなかったとしても、いつか余裕ができて優先順位が上がったときに、実行できる人たちです。そして、行動変容しないと決めつけている人。実はこのタイプには、生来的な遺伝性疾患を気にしていたり、運動に対するトラウマがあったり、運動が苦手で人前で一緒にやること自体がストレスとなるなど、健康行動を避ける理由を持っています。そのためこのタイプに対しては行動変容を強く求めないで、寛大に見守ることを勧めます。
行動できた人、行動意欲のある人を優先的に推進していくことにより社内での盛り上がりが生まれ、健康意識の低い人や行動変容を諦めている人も、徐々に周囲の盛り上がりに引っ張られます。長い年数がかかりましたが、社内での禁煙が定着したように・・・。行動できる人たちが、自由闊達に運動などに挑戦できる環境を整え、行動できない人たちを別の視点から温かく見守りながら、健康行動に意欲的に取り組む時機の到来を待ちましょう。
次に「継続」の長期化のためには、心から満足して健康行動を繰り返すというプラスのスパイラル現象を起こすことが必要です。そのためには必ずしもハードルの高い挑戦ではなく、簡単なタスクの積み重ねによる小さな成功によって脳を喜ばせることもOKなのです。この好循環をキープし続けるには、「周囲からの行動変容に対する賞賛の声」が有効です。「運動後は血糖値や血圧が下がる」など、効果を“見える化”することも継続の動機となりますね。
働くみなさんへの私からのメッセージは、40歳や50歳からでも遅くはないので、自分に合った運動やスポーツなどを見つけて、職場仲間や友人、家族らと大いに楽しむ術を習得してほしいという願いです。スポーツは野球やサッカー、バスケットボール、陸上競技といったメジャーな種目に限りません。これまで自分に合った運動が見つからなかった人こそ、新しい種目に挑むチャンス。実は国内外のマスターズスポーツイベントで開催されている競技だけでも2007年の時点で124種目、それほかのスポーツを含めると200以上あるようです。きっと自分に合った種目が見つかります。

私は元アスリートの人たちより、スポーツをやってこなかった人たちのほうがより新しいスポーツに健康的に取り組めると思います。大きな成果を期待しないで気楽に続けられ、何よりも怪我をしにくいといった大きなメリットがあります。
最後に、健康経営を推進する企業に提案したいのは、サポートシェアリングシステムの醸成です。具体的には、健康に関する専門知識を持つ社員の育成です。野球で言えば、投手、捕手、内野手、外野手の9人による上手な連携プレイの実現なのです。社員が筋トレ、ストレッチ、ウォ―キング、血圧、食事(ダイエット)、睡眠など興味のあるジャンルのエキスパート(スペシャリスト)になるために勉強をして、ほかの社員をサポートすることに大きなやりがいを感じるものです。健康相談を病院や外部に依存しすぎないで、社内で協力し合いながら健康増進を図っていくというデザイン構築です。
手軽なアプリなどで始める健康施策から、最終的には個々が自立して行動する健康経営へ――。組織が上手に社員の健康をサポートすることで、みんなが主体的に健康に向けた行動ができるようになるはずです。

調査から見えてきたこと

「健康のために行動しなければならない」と考えていても、人はなかなか行動できません。また今回、行動できない多様な理由があることも分かりました。しかし興味・意欲の度合いが違っても、長い人生を生きるうえで健康でありたいという気持ちは誰もが同じです。
はたらき方を取り巻く環境が猛スピードで変化している現在、多くの社員が興味を持ち、健康への行動に踏み出す施策を見つける、そして広めるチャンスと捉えることもできます。今回のアプリに限らず、上手な工夫と柔軟な発想で、企業の個性に合った健康施策の推進がますます重要視されていく時代ではないでしょうか。

企業横断型プロジェクト「FROM PLAYERS」では、“いいはたらくとは何か?”をテーマに、研究、実践、支援、啓発などの活動を行っています。

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白石 文香